COLUMN

UA値が良ければ省エネな暮らしが実現できる?

現在、住宅の断熱性能等級の基準は「UA値(外皮平均熱貫流率)」によって評価されます。
そこで、UA値の性能を高めていくことで断熱性が高まった結果、省エネにもなると考えがちです。

でも実際には夏に家の中が暑く、光熱費が思ったより高かったり、冬にそこまで暖かくならないといったこともあります。
それは断熱性だけを考えるのに必死で他の大事なことを見過ごしているためかもしれません。

実際には断熱性能と省エネ性(家の燃費)は別の指標であり、UA値の性能が高いからと言って、必ずしも省エネ(家の燃費がよくなる)とは限りません。
少し専門的な話になりますので、結論を知りたい方は目次のまとめをご覧下さい。

家の省エネ性(燃費)は何で決まる?

家は日射熱や換気などによる熱の出入りの影響がある為、それを反映した省エネ計算を行う必要があります。
家の隙間からの漏気や換気によって冬の暖めた空気や夏の冷やした空気が外の空気と入れ替わって、熱が逃げてしまう。

さらに日射熱や人体や電化製品等からの室内発生熱によって家の室温を上げる要因は以外と省エネ性能に大きな影響を与えるためです。

ですので、UA値が同じでも家の省エネ性(燃費)に差が生まれます。

他にも家の形や階数、24時間換気の種類、床や壁などの仕上げ材によっても家の省エネ性(燃費)は変わります。

総2階建て住宅とコノ字型住宅の省エネ比較

たとえば家の形ですが、面積が同じ下図のような形が違う家でUA値が同じ0.43の場合
Q.家の省エネ性(燃費)は同じになるでしょうか?

総2階建て住宅プラン
コノ字型住宅プラン

前提条件として断熱仕様はコノ字型プランの基礎断熱のみ厚さをプラスしてUA値がほぼ同じになるように調整しています。

QPEXで計算してみるとこのような結果になります。

総2階プランQPEX
総2階建て住宅プランのQPEX計算結果
コノ字型プランQPEX
コノ字型住宅プランのQPEX計算結果

これらを比較すると総2階の年間暖冷房エネルギーは4141kwhであるのに対し、コノ字型は4774kwhと15%増しになっています。
電気料金(30円/kw)を計算すると年間6,333円の差額となります。

総2階建て住宅と平屋住宅の省エネ比較

同様に面積が同じ総2階建てプランと平屋住宅プランでUA値が同じ0.43の場合はどうでしょうか?

総2階建て住宅プラン
総2階建て住宅プラン
平屋住宅プラン
平屋住宅プラン

こちらの前提条件としては断熱仕様は平屋住宅の方は天井、壁、基礎の全てで断熱材を薄くしてUA値がほぼ同じになるように調整しています。

こちらもQPEXで計算するとこのような結果に。

平屋住宅のQPEX
平屋住宅のQPEX計算結果

上の総2階建て住宅プランの計算結果と比較すると総2階建ての年間暖冷房エネルギーは4141kwhであるのに対し、平屋住宅は4931kwhと19%増しになっています。
電気料金(30円/kw)を計算すると年間7,891円の差額となります。

これらの結果からいろいろな事がわかります。

  • UA値が同じでも家の形によって、省エネ性は変わる
  • 家の形が複雑になると断熱仕様を上げないとUA値が悪くなってしまう
  • 家の形が複雑になるほど省エネ性が低くなる
  • 平屋住宅にするとUA値の数値が良くなる
  • 逆に言うと2階建て住宅と平屋住宅ではUA値が同じ場合、平屋住宅の省エネ性は低くなる

これらを知った上でプランをする事で省エネ性も考慮できます。
平屋住宅ではHEAT20のG3グレード(断熱等級7)も比較的、実現しやすいと思いますが、省エネ性はまた別の話と言う事です。

窓の配置による省エネ性は?

また少し極端な例ですが、同じ建物形状でUA値も同じ家で窓の配置と大きさを下記のように変えた場合はどうでしょうか?

南面に窓配置
南面に窓を配置
北面に窓配置
北面に窓を配置

どちらも断熱仕様や窓の数と大きさは同じ条件です。

この場合にQPEXで計算した結果を掲載します。

南面の窓配置QPEX計算結果
南面に窓配置QPEX計算結果
北面に窓配置QPEX計算結果

予想どおり、窓の配置によって家の暖冷房エネルギーに差が生まれ、南面に窓を配置した方が北面に比べて14%削減される事になります。
他にも窓の大きさやガラスの種類、軒や庇によっても家の燃費は違ってきます。
これは太陽の日射熱が室温に影響を与える為であり、同じ室温にする為に必要な暖房エネルギーが変わる為です。

そこで窓の配置や大きさ、ガラスの種類を検討する必要があります。
同時に夏の日射を遮る手段の検討などを行って、季節ごとの室内の熱環境がより良くなるように計画することも大事です。

他にも24時間換気を第一種熱交換換気にするか第三種換気にするかでも変わりますし、気密性能の差によっても省エネ性は違います。

これらは全てUA値には関係がないため、同じUA値でも省エネ性が違うという事になります。

UA値が良い事に意味はないのでしょうか?

ただ、誤解のないようにして頂きたいのがUA値を良くすることは大事です。
UA値の差によって外と中の熱の移動しやすさが決まる為、熱の行き来を減らすには、まずUA値を高めることは必須です。
しかし、それ以外にも多くの考えるべきことがあり、そこが設計力の差で生み出されます。

また、UA値は日本全体で高断熱な家の普及を考えると役に立っています。

それは計算が簡単なため、どんな会社でも取り入れやすく、断熱性能のある家を普及させることを目的とした点において評価できるということです。

このUA値の基準だけで家の省エネ性が決まるかのようにアピールしている住宅会社も多い為、そこだけを比べても意味がない事を認識して頂き、『こんなはずではなかった』とならないようにして頂きたいです。

結果的に家の省エネ性(燃費)は気密性や換気、日射熱や人体や電化製品等からの室内発生熱なども考慮された計算を行って初めてわかります。

それは冬と夏では反対に作用する為、冬だけを考えて計画してもダメで、夏の日射遮蔽を同時に考えておくのも大事です。

壁や天井など部位ごとの断熱性能は同じで大丈夫?

さらに高断熱にすれば、天井や屋根、壁、窓、床や基礎など、それぞれの部位の断熱性能のバランスを考えることも大事です。
極端に弱い部位があるとそこから熱が逃げていきやすくなり、場合によっては結露する恐れが高まるので、注意が必要です。

他にも部位ごとの断熱では天井や屋根と壁では求められる性能が違います。

と言うのも夏場の屋根裏の空間や屋根直下では夏場の気温が60℃程度と過酷な環境になるのに対し、壁は40℃程度です。

例えば室内の温度が27℃とすると、その温度差は天井で33℃、壁では13℃で倍以上の差があります。

これを知った上で天井や屋根の断熱と壁の断熱は同じで良いと思いますでしょうか?

温熱の事を少しでも理解していれば、天井や屋根の断熱は壁の断熱に対して2倍は最低でも必要だと考えるはずです。
そうしないと屋根の下の天井が暑くなる為、エアコンで冷やすと足元が冷えて頭の方が暑い不快な環境になる事が容易に想像できます。

しかし、UA値は全体の面積で割った平均値であるため極端な話、壁と天井の断熱性能が同じ家と、壁に比べて天井の断熱性が2倍の家のUA値が同じという事もありえます。

もう一つ難しい話ですが、熱橋と言われる部分にも注意が必要になりますが、それは設計者や住宅会社が考えて対策しないといくら建て主が勉強して伝えても理解していない実務者では対策が難しい。
そのような事を普段から計算して、わかっている会社に依頼するのが省エネで快適な家に住むことが出来る一番の近道かもしれません。

まとめ(家づくりは省エネ性だけではない)

ただ家づくりにおいて省エネ性だけが全てではありませんので、デザインや暮らしやすさ、普段目にする景色なども考えた上で設計する事がもちろん大事です。

実際に弊社でも平屋住宅はもちろん、コの字型のプランやあえて北側に大きな窓を計画することもあります。 そうすることによって普段の暮らしが豊かになると思えば提案していますが、それも同時に省エネ性の事も考慮した上で家の省エネ性(燃費)が少しでも良くなるような計画を行います。

どうすれば省エネになるかわかった上で設計するのと全然考えずに設計するのでは住んでからの快適さや光熱費に大きな差が生まれる事を知って頂ければと思います。

結論としてはUA値などの断熱性能だけでなく、QPEXなどの省エネ計算ソフトでしっかりと計算を行ってQ1.0住宅など、一定レベル以上の省エネな家になっているかどうかが快適で省エネな暮らしを実現する上で重要と言えます。

→Q1.0住宅とは