家づくりを検討する中で、「付加断熱(ダブル断熱)」という言葉を耳にしたことがある方は少ないのではないでしょうか。
周囲の建築関係の方や設計されている方に相談すると「付加断熱までは必要ない」という意見を聞くかもしれません。
そんな話を聞くと
「本当に付加断熱って必要なの?」「普通の断熱じゃダメなの?」
そんな疑問を抱くこともあるでしょう。
そこでこのコラムでは、省エネで快適な注文住宅を建てたいと考えている方に向けて、付加断熱のメリット・デメリットを解説します。
目次
1.付加断熱(ダブル断熱)とは?
まず、「付加断熱(ダブル断熱)ってそもそも何?」 という疑問を解消しましょう。
家の断熱方法は、大きく分けて「充填断熱」と「外張り断熱」の2種類があります。
・充填断熱: 柱や梁の間など、壁の内部に断熱材を詰める、日本の住宅で最も一般的な方法です。
ただし、柱や梁などの木部は断熱材に比べて熱を通しやすく、弱点(熱橋)となります。
・外張り断熱: 建物の構造躯体の外側に断熱材を施工する方法です。
外側だけでは分厚い断熱が難しく、高性能な断熱材を使うか、断熱材を厚くするための下地(桟)を組む必要があり、コストがかかる点がデメリットです。
・付加断熱(ダブル断熱)とは、この充填断熱に外張り断熱を付加する断熱方法です。
壁の内側と外側の両方に断熱材を施工することで、より高い断熱性能を実現し、デメリットを補うことができる方法と言えます。
2.付加断熱(ダブル断熱)のデメリット
【敷地有効面積】
壁が厚くなることによる、敷地有効面積の減少: 断熱材の厚みが増す分、壁が厚くなり、特に街中など隣地との距離が取れない土地では、居住スペースや隣地との距離への影響を考慮する必要があります。
【デザイン問題】
複雑な形状の建物には不向きな場合がある: 外張り断熱は、凹凸の多い複雑な形状の建物には施工が難しく、デザインに制約が生じる可能性があります。
【技術力問題】
設計・施工に高い技術力が求められる: 高い断熱性能を最大限に発揮するためには、断熱・気密に関する専門知識と、それを実現する施工技術が不可欠です。
【費用問題】
初期コストが増加する: 充填断熱に加えて外張り断熱の費用が発生するため、新築の場合、数十万円から百万円程度の費用増加が見込まれます。
これが、付加断熱の採用における最大のデメリットと言えるでしょう。
3.付加断熱(ダブル断熱)のメリット
【圧倒的な快適性】「体感温度」が格段に向上
付加断熱の最大の魅力は、何と言ってもその「体感温度」の違いです。
付加断熱を施した住宅では、壁の表面温度が室温とほとんど変わらなくなります。
そのため、夏は、外壁からの輻射熱(壁や天井からモワッとした暑さ)を感じにくくなり、エアコンの設定温度を高めにしても、涼しく過ごせます。
冬は、外壁からの冷輻射(ヒヤッとする冷たさ)を感じにくくなり、暖房の設定温度を低めにしても、暖かく過ごせます。
従来の充填断熱のみの住宅では、柱や梁などから熱が伝わりやすく、壁の表面温度に外気の影響が出て、温度ムラが発生してしまいました。
しかし、付加断熱を施した住宅では、壁の表面温度が室温とほとんど変わらないため、穏やかで心地よい室内環境を実現できます。
これこそが、私が付加断熱をお薦めする一番の理由でもあります。
【光熱費削減】我慢しなくてもエアコン代を節約!体にも優しい省エネ生活
付加断熱による断熱性能の向上は、光熱費の削減にも貢献します。
例えば、夏の冷房設定温度を1度上げ、冬の暖房設定温度を1度下げると、年間の光熱費を約10%削減できると言われています。
付加断熱によって体感温度が変われば、設定温度を控えめにしても快適な室温を維持できるため、我慢することなく光熱費を削減できます。
【結露対策】結露・カビを抑制し、家族の健康を守る清潔な住環境を実現
付加断熱は、結露やカビの発生を抑え、健康的な暮らしを実現する上でも重要な役割を果たします。
結露は、室内の暖かい空気が冷たい壁やガラスなどに触れて、空気中の水蒸気が水滴になる現象です。
特に冬場の窓ガラスの結露は、毎朝の拭き掃除が大変です。
サッシの高性能化と付加断熱によって壁体内の温度差が小さくなれば、結露が発生しにくくなり、窓ガラスの拭き掃除やカビ取りの手間を大幅に軽減できます。
特に冬場は、床面付近の気温が低下しやすく、結露やカビが発生しやすい環境になりますが、付加断熱によって上下の温度差をより小さくすることで、結露やカビの発生リスクを大幅に軽減できます。
アレルギー体質の方や、小さなお子様がいるご家庭では特にメリットが大きいでしょう。
さらに付加断熱によって室温が安定すれば、外気温との温度差が小さくなり、体への負担も軽減され、自律神経にも好影響が期待されます。
例えば、「夏、冷房の効きすぎた部屋から外に出た時の、あの嫌なダルさ」や、「冬、過度に暖房された部屋から外に出た時の、あのゾクッとする寒さ」を感じることも少なくなるでしょう。
【耐久性・防火性・耐震性向上】外気の影響を遮断し、長持ちする家を実現
付加断熱の効果は、快適性や省エネ性だけにとどまりません。建物の耐久性や安全性向上など、見えない部分にも良い影響を与えます。
・【耐久性向上】柱などの木部は、断熱材に比べて熱を通しやすいため、熱橋となり、周囲との温度差が生じます。
この温度差によって木材が伸縮を繰り返し、内装仕上げにひび割れや剥がれなどの不具合を引き起こす可能性があります。
付加断熱によって熱橋の影響を軽減することで、内・外装の美観を長く保つことができます。
・【耐震性向上】構造部材の温度変化を抑えることに加え、付加断熱を留めるビスの効果によって壁の強度が高まるという実験結果もあります。
また制振テープや気密テープは、地震対策や気密性確保のために重要な役割を果たしますが、熱に弱いという弱点があります。
付加断熱によってこれらの部材が熱の影響を受けにくくなるため、劣化を抑制し、その効果を長く維持することができます。
・【防火性向上】付加断熱を施工することで、外壁に板張り仕上げを行っても防火認定を取得している断熱材が多くあります。
通常の充填断熱だけの家に比べて、防火性を高める効果があると言えます。
・【気密性向上】外側に付加断熱を行うことで気密性が高まるのもありますが、付加断熱を行うほどの住宅会社や工務店では気密性能の大事さも理解しているはずです。
そんな会社での気密施工はしっかりと行われていることが多く、気密測定まで全棟で実施している会社も多いです。
これだけ多くのメリットがあるにもかかわらず、なぜプロの建築実務者や設計者でも『付加断熱は必要ない』と言う人が多いのでしょうか?
必要ないと言われるほとんどが付加断熱された家の体感や実測などを行ったことがない人たちです。
少なくとも私は実際に体感したり、実測を行った実務者からは否定的な意見を聞いたことがありません。
4.付加断熱(ダブル断熱)の効果を徹底検証(断熱性能・省エネ性・費用対効果)
「でも、本当にそんなに効果があるの?」と疑いたくなる気持ちも分かります。
ここでは、UA値と暖冷房エネルギー負荷という2つの指標を用いて、その効果を数値で見ていきましょう。
- UA値: 外皮平均熱貫流率のことで、数値が小さいほど、「熱を通しにくい=断熱性能が高い」 ことを意味します。
- 暖冷房エネルギー負荷: 快適な室内環境を維持するために必要なエネルギー量のことで、数値が小さいほど、「少ないエネルギーで快適に過ごせる=省エネ性能が高い」 ことを意味します。
ここでは、6地域の充填断熱だけの住宅と、その住宅に30mm,45mm,60mmの付加断熱(フェノールフォーム断熱材)を施した住宅のそれぞれのUA値と暖冷房エネルギー負荷を比較してみましょう。
前提条件として付加断熱なしの場合でも弊社で以前、基本仕様としていたUA値が0.37(w/m2・k)程度と断熱等級6以上HEAT20ではG2以上の高性能な住宅との比較になります。
この中で付加断熱の無い充填断熱だけの家と30mmの付加断熱を行った家のUA値と暖冷房エネルギー負荷の差が最も大きい事が確認できます。
より分かりやすくする為に断熱材の厚さとUA値、暖冷房エネルギー負荷の関係をグラフで表してみます。
付加断熱30mmを施工することで、UA値と暖冷房エネルギー負荷はそれぞれ約20%削減されるという結果が得られました。
さらに付加断熱を45mm,60mmにすることでUA値も暖冷房エネルギー負荷は減っていきますが、付加断熱無しの場合と付加断熱30mmの場合の差ほどは大きくないです。
これらの数値はあくまで一例ですが、付加断熱を行うことで数値上の優位性があることがわかります。
付加断熱30mmと45mm,60mm、費用対効果が高い最適な選択は?
では、付加断熱を行う上で費用対効果を考えるとどうでしょうか?
上記の通り、30mmの付加断熱でも十分な効果が得られることが分かり、断熱材を45mm,60mmとすることでさらに高い断熱性と省エネ性が得られます。ただ、断熱材の厚みが増す分、費用も高くなります。
では、30mmと45mm,60mmではどれにすると費用対効果が高いでしょうか?
結論から言えば、費用対効果の面では、30mmが最もコスパが良いと言えます。
しかし断熱材の施工手間はほとんど変わらないので、費用に問題なければ、より厚い60mmの断熱材を施工するのがベストと考えています。
それは、より快適な暮らしを実現でき、将来的な断熱強化のコストを考慮すると、初期投資としての価値が高いからです。
つまり、予算と求める断熱性能のバランスを考慮しながら、最適な断熱材の厚みを選ぶことが重要です。
正直なところ、数値的な費用対効果だけで考えると付加断熱を採用するメリットは少ないのかもしれません。
しかし実際に体感して、実測した立場の人間からすると絶対に取り入れるべきだと確信したため、現在では全ての家でご提案しています。
結果としてさらに暖冷房費を抑えることができる
同じ温度を保つにも断熱性が高い方が暖冷房のエネルギーが少ない為、光熱費を抑えることができるのは想像できると思います。
ただし、その光熱費の差は現状の電気料金ではそれほど大きくない為、同じ温度設定で資金を回収するのは30年以上掛かるのが現状です。
しかし付加断熱を採用することで設定温度を抑える事ができ、その設定温度が1度違えば、上述の通り光熱費に大きく反映され、実際にはもっと早く回収できると考えられます。
5.要注意!壁の付加断熱(ダブル断熱)だけでは不十分
ここまで、付加断熱の様々なメリットについて解説してきましたが、注意すべき点もあります。
それは、壁に付加断熱を施工するだけでは不十分だということです。
壁の外付加断熱を行うなら床や天井・屋根の断熱強化も行うのが絶対条件
熱は、最も断熱性能の低い部分から逃げていく性質があります。
壁以外の部分、例えば床、天井、屋根や窓の断熱対策が不十分だと、せっかく壁に付加断熱を施しても、その効果を十分に発揮することができません。
特に天井、屋根は、壁以上に断熱性能を高める必要があります。
これらの部分の断熱対策を怠ると、夏は暑く、冬は寒い、壁の付加断熱をしている割にはそこまで快適でない環境になってしまう可能性があります。
「熱は、最も断熱性能の低い部分から逃げていく」という性質を理解し、家全体の断熱バランスを考慮することが、非常に重要です。
夏は特に注意!屋根裏は60℃まで上昇
もう一つ重要な要素は、室内と外の温度差が大きい場所ほど、断熱が重要だということです。
夏場、直射日光を受ける屋根面は非常に高温になり、屋根裏の温度は60℃を超えることも珍しくありません。
室内が25℃程度だとすると実に35℃もの温度差が生まれる。
屋根裏の断熱対策が不十分だと、この熱が室内に伝わって、天井面の温度が高い状態になり、冷房効率を低下させてしまう。屋根裏の温度が室内に伝わらないようにするには天井や屋根の断熱強化は必須と言えます。
壁の場合、暑くても外壁下地面材の温度は40℃程度なので、温度差が15℃程度。
それを考えると天井や屋根の断熱は壁の1.5倍から2倍程度にするべきです。
床下での断熱を行う場合も大引き間の断熱だけでなく、その上か下に付加断熱を行う事で床表面温度が変わるため、より快適になります。
6.将来、必要になれば付加断熱(ダブル断熱)をしたら良いのでは?
先ほど付加断熱を行うことで最大のデメリットはコストが掛かる事だと挙げましたが、ここまでの説明で付加断熱の効果を実感して頂き、『いつかは付加断熱をしてみたい』と思われたのなら、新築時に行うのがベストです。
と言うのも将来、付加断熱をリフォームで実現しようとすると、何百万円もの費用が発生する可能性があるからです。
新築時に付加断熱を採用すれば、リフォームに比べてそのコストは10分の1程度で、はるかに安価に実現することができます。
数十年後のリフォームでは、数百万円の出費が掛かる為、断熱強化はあきらめて、表面だけのリフォームを選ばざるを得ない状況になりかねません。それは私自身の実体験でもあります。
新築時に付加断熱を採用すれば、リフォームに比べてはるかに安価に、高い断熱性能を実現することができます。
まとめ:付加断熱で後悔しない、将来も安心な家づくりを!
私の自宅を建てる時には付加断熱を行うことを全く考えていませんでした。
それから十数年経って、施主様の付加断熱された家を建てさせて頂き、その家で体感するにつれて、本当に羨ましく、自宅の家づくりで唯一と言っても良い後悔が付加断熱をしなかったことです。
今から付加断熱を施工するのは、工事も大掛かりで、費用的にも非常に高額になるため、現実的ではありません。
そんな私からアドバイスできる事として、付加断熱は、快適性、省エネ性、健康、耐久性、安全性など、様々な面でメリットをもたらす、非常に有効な断熱方法だということです。
今から建てられる方で将来に渡って、長く快適な暮らしを実現したい方や次の世代に引き継ぎたいと考えられている方には予算が許す限り、付加断熱の採用を強くお勧めします!